猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
取り乱す美桜をソファーに座らせると、絢士は今度は隣に腰を下ろした。
「誰に何を聞いたのか知らないけれど……」
「しぃー。美桜、俺の話をちゃんと聞いて」
身体を少しだけ向けて、絢士は美桜の返事を待っている。
『わかった』と、頷くしかないので美桜も少しだけ身体を彼の方へ向けた。
「俺は生まれた時から父親の顔を知らない」
「そうだったの……」
膝の上に置かれた彼の手にそっと自分の手を重ねると、絢士さんは瞳を閉じてふうっと息をはきだした。
瞳を開けたときにはそこに悲しみの色は見えなかった。
「そして、俺を生んでくれた母親も三つの時に亡くなってるんだ」
「え?だって……」
『みゆきさんは絢士さんのお母様じゃないの?』
問いかける美桜の瞳に絢士さんは頷いた。
「あの人は……みゆきさんは…、戸籍上は俺の父親だ」
え?いま、父親って言った?
聞き間違いかしら?
「なにを言ってるの?」
「病気になった母とそれを知ったみゆきさんは、俺の為に籍を入れたんだ」
絢士さんの言ったことを頭が理解するのに、少し時間がかかった。
えっと、じゃあみゆきさんはお父様でもありお母様でもあるわけ?
「うそっ……」
「こんな嘘は中々つけないと思うよ。だからみゆきさんとは血の繋がりがないし、本当の父親も知らないんだ。
俺は血筋どころか、自分でも自分が何者なのかわからないんだ」
それで何がいけないの?