猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「何を聞いたのか知らないけれど、大河内家の話を信じたりしないで」
「俺だって馬鹿げた話だと思ってるよ、でも正直、全くの嘘だとも思ってない。俺にあるかもしれない悪しき血筋のせいで美桜を不幸には出来ないよ」
それでもかまわない。
私は絢士さんに悪しき血が流れてるとは思えないし。
「私はあなたには清き血筋が流れてるに、賭けてみるって言ったら?」
「そんなリスクは犯さなくていいんだ」
「えっ……」
彼の顔が今まで一度も見たことのない苦しそうな表情をしている。
「絢士さん?」
「所詮俺たちは別の世界の人間だったんだ」
重ねていた手が冷たく離された。
「どうしてそんなこと言うの!」
「美桜だって知ってるだろ?俺は決められた道を歩くのが苦手なんだ。権力に縛られるのもな」
「そんなことには……」
「ならないとは言えないだろ?美桜の夫として生きていく人生は受け入れられないよ」
「絢士さんは絢士さんよ!どこだって変わらないわ!」
ふっと小さく微笑んだ絢士さんの手が美桜の頭を撫でようとして、躊躇って宙で拳を握った。
「俺にもすげー後ろ楯があったら、よかったのにな」
ダメよ!そんなこと言わないで!
「私が麻生を棄てればいいのよ、ね?」
そうよ、簡単な事だわ。
絢士さんがいれば他にはなにもいらないもの。
「美桜、わかってくれ」
「嫌よ!わからない!」
絢士さんこそ、どうしてわかってくれないのよ?
美桜は込み上げてくる悲しみで揺れる視界を必死で堪えた。
泣いたらダメ
泣いたって絢士さんは困るだけで事態は変わらない
何かいい方法を考えなくては!
今すぐ彼の考えが変わる何かを……