猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
どれくらいの時間だろう…、しばらくの間 沈黙が続いたあと、絢士さんの深いため息が最後通告になった。
「ごめん、いくら考えても同じだと思う」
嘘でしょう?
本当にこれでいいの?
「すまないが、殆ど寝てなくて疲れているんだ。もう帰ってくれないか」
強引に手を引っ張られた。
「待って!」
もう後戻りできないのなら、
ここで惨めになってもかまわない
美桜は胸が張り裂けそうな痛みを堪えて
彼の背中を抱きしめた。
「愛してるって言ったのは嘘?」
ビクッと絢士さんの身体が大きく震えた。
お願い、振り返って抱きしめて!
「美桜……」
ゆっくりと振り返った彼の瞳にあったのは自分と同じ痛みだった。
「ダメよ……そんなのダメ……」
ぐっと何かを堪えてから、絢士さんは弱々しく笑った。
「今更どちらでもかわまないじゃないか」
「そんな……」
嘘だったと言われたら、
暴れてでも取り戻してみせると思ったのに
肯定も否定もしないなんて……
美桜の張り詰めた心の糸がぷっつり切れた。
引きずられるように玄関まで連れてこられて
靴を履くように促され、素直にパンプスに足を入れた。
これで終わりなの?
こんな終わり方でいいの?
「待って!絢士さん!お願い…話を……そうよ話!絵の事だって、私の話を聞いてないじゃない!」
一瞬、動きを止めた彼が呟いた。
「あの絵の画家は……」
「そうよ!聞いて!あの絵の画家 綾乃さんはね、」
背中を押されて玄関の外へ出される。
「俺の母親だよ」
「えっ……」
驚いて絶句し、我に返った時にはバタンと扉が閉まって鍵の掛かる音がした。
「絢士さんっ!!開けて!お願いよ!」
どんなに叩いても、二度と扉が開くことはなかった。