猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
美桜の推理
神宮寺はつい今しがた聞いた辞令と、それと共に聞かされた話に驚いてデスクに戻ると、室長はたった今 出て行ったと教えられ慌てて後を追った。
「待ってください!室長!」
エレベーターの扉が開ききる前にロビーへ飛び出した。
「なんだ神宮寺、そんな顔して」
榊さんの下について三年、まだまだ教わる事はたくさんあるはずなのに……
「何故です?どうしてこんな急に……」
「急でもないさ、異動はいいきっかけだと思ったんだ」
嘘だ!!絶対にこの間の結婚式の日に何かあったと、神宮寺にはわかっている。
「一緒に冒険するって、言ったじゃないですか!」
「そうだったな。だが、おまえもそろそろ自分の冒険に出てもいい頃だろ?」
「だからって、急に僕が室長なんて……」
「だから急でもないんだって。異動の内示が出た時には、おまえを後任に指名したんだ。部長は返事を渋った振りをしていたが、流石にそこまで馬鹿ではなかったようだな」
「あの時はそんな事一言も……」
「俺の代わりが他に誰に務まる?」
「室長……」
神宮寺は込み上げてくる熱いものを無理矢理のみ込んだ。
「これからどうされるおつもりですか?」
「異動のお陰で挨拶回りは済んでるから、有休消化も兼ねて明日から社には来ないつもりだ」
「そうではなくて……」
「神宮寺、後は頼んだぞ」
ガシッと肩を掴まれて、それ以上何も聞かせてもらえないと悟った神宮寺は、悔しさとやるせなさを堪えぎゅっと口を結んで頷いた。
「お宝が見つかったら教えて下さい」
「ああ」
「お宝がなくてもいつでも連絡ください」
「ああ、わかったよ」
掴んでいた手で、肩を優しく叩かれた。
「神宮寺、おまえと仕事ができて楽しかったよ」
「室長……」
「じゃあな」
振り返ることなく去っていく憧れの上司を神宮寺は姿が見えなくなるまで、いつまでも見送っていた。