猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
おじ様の衝撃と苦悩①
アンティークショップ【Silver spoon】は 東堂の安らぎの場だった。
そもそも、ここに飾られているのは昔 父親とぶつかって日本を飛び出した際、気ままに買ったのを生存報告を兼ねて親友の麻生蘇芳に送っていたものだ。
この店に来ると、愚かながらも楽しかった思い出に心が安らぐ
蘇芳の娘がアンティーク好きになるとは思っても見なかったが、悪くない選択だ。
東堂は壁に飾られた猫の絵を眺めた。
あの旅に出なかったら、彼女とは出逢わなかった。
綾乃、どうして君は消えてしまったんだ?
待っていると、約束したのに……
何故、俺を置いて先に逝ってしまった?
この自問自答もそろそろ30年か……
その長さに思わず自嘲していると、入り口の開く音がして東堂は我に返った。
「おやおや、二人揃ってどうした?」
美しい自慢の娘たちを見て相好を崩す。
「パパ!さっき今泉さんが私にまで電話してきたわよ、困らせちゃダメじゃない」
「あいつは何年俺の秘書をしてるんだ?」
『わかってないな』とわざとらしいため息をつく父親に日向は抱きついた。
「なんだ?今日は父の日だったか?」
視線の端で美桜が店をcloseにしているのをとらえて、東堂は首をかしげた。
「オーナー、勝手にお休みして申し訳けありませんでした」
「頭を上げなさい、美桜がこんな事をするからには、何か特別な事があったんだろ?」
中々頭を上げない美桜に変わって、日向が答えた。
「あったのよ、だからパパ話を聞いて」
「ひなっ!」
「回りくどいのは止めましょう、私達は家族なんだから。ね?パパそうでしょ?」
「何だかわからんが、私に話があるんだな」
「そうよ」
「わかった、聞こうじゃないか」
「お茶の用意してくるから、みお先に話を始めててね」
それは来る途中二人で打ち合わせた事だ。
綾乃さんの話をするのに、娘がいたら気まずいだろうと日向はバックヤードいると。
日向は計画通り裏へ消えた。