猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「ん?続きはどうした?」
「あっ、はい。では次は少し彼の事を聞いてください」
「彼とは?」
「つい先日まで私がお付き合いしていた榊 絢士さんです。そもそも彼がここへ初めて来た日、この絵と同じ猫の絵を持っていると言ったのが、全ての始まりでした」
美桜はゆっくりと想い出を辿るように、絢士の事を話して聞かせた。
花菱デパートに勤めていること。
クリスタルの猫を買ってくれたこと。
出張に行くと必ずお土産を買ってきてくれること。
彼を知っている人たちは、みんな彼の事を好きなこと。
冒険が好きで、自分を飾らず正直で
人生を楽しむ事を知ってる、心から愛した人……
絶対におじさまは彼を気に入るはずだと信じて、美桜は
楽しかった思い出と一緒に彼の性格を伝えた。
「そうか。中々見所のある男じゃないか」
「ええ、それはもう」
「どうして別れた?」
「……、フラれたんです」
それを口にするのがどんなに辛いか察してくれたのか、おじさまはそれ以上は何も聞かなかった。
「ええと!それで、その絢士さんのお母様にお会いした時に、絵の事で母の名前が出てきて……それで私はハワイの志都果さんに会いに行ったんです」
「その人は綾乃と友達だったのか?」
東堂は遠い記憶の中から、必死で綾乃の友人を思い出そうとしたが、サカキという名を聞いた記憶はなかった。
「はい」
「彼はその……ええと、さかきさんの息子さんだったんだな」
「そうですね、でも厳密に言うと違います」
「どういう事だ?」
今みゆきさんが父親で母親なことを話しても、おじさまは混乱するだけだろうから、美桜は一旦その事は伏せた。
「つい先日私は彼から別れを告げられました。
私がASOの長女だから、私と彼では住む世界が違うと言われて……」
「馬鹿な男だな」
「彼の言うことは最もです」
美桜は揺れる視界を何とか堪え、彼の為に彼の思いが伝わるようにおじさまに一生懸命説明した。
話ながらまだ自分がどれだけ彼を愛しているかを思い知って、胸がずきずき痛んだ。