猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
日向の用意したウイスキーを一気に煽って、東堂はその場を行ったり来たりした。
何かしていないと気が変になりそうだ。
あの日、綾乃を置いて日本に戻る日の彼女の笑顔が脳裏に蘇り、後悔が雪崩のように押し寄せてくる。
いっそこのままそれに埋もれて死ねたら、どんなに楽だろうか。
「おじさま」
「なんだよ!」
怒鳴り付けた相手が美桜とわかり東堂の顔はハッとして歪んだ。
「すまない」
「いいえ、私は。それよりも……」
美桜が気まずそうに向けた視線の先を見て、東堂は平手打ちされたような衝撃を覚えた。
「日向!すまない」
駆け寄って娘をきつく抱きしめる。
「いいのよ、パパ……思う存分後悔して」
「……日向、おまえを愛してるよ」
「わかってるわ、私も愛してるわ」
抱き合う二人を見て、美桜も熱いものが込み上げてくる。
「ねえ、パパ?こう見えて私も辛いのよ?私がどれだけ兄が欲しかったか知ってるでしょう?」
日向がおじ様の肩越しに私に笑った。
「まったくおまえは……誰に似てそんな出来た娘になった?」
「もちろん、ママよ」
東堂の身体からフッと力が抜けた。
「そうだろうとも」
東堂は笑って日向の頬を軽くつねった。
「取り戻せる?」
「いいのか?」
「当たり前でしょう、家族なのよ」
「……ありがとう」
二人の会話を聞いて、美桜はホッとして、ようやく肩から力が抜けた。