猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

「美桜、彼の持っている絵だが……」

「私が見たのはたぶん秋の絵です」

秋……いつ描き上げたんだ?
あの国へ冬に来て、春を描きそして俺と会った夏を描いて日本に戻ったのではなかったのか?

「どんな絵か教えてくれないか?」

「一言で言うと、喜びに溢れた絵です」

「喜び……」

「白猫には同じクローバーの模様があって猫の瞳はオレンジと黄色でした。お城ではなく可愛らしい家にたくさんの花温かみに溢れた、見ていると笑顔になれるそんな絵でした」

きっと綾乃さんは妊娠を知ってあの絵を描いたんだと思う。
幸せな気持ちで描いたはずよ。
あの絵を見た時におじさまにそれが伝わるといいな

「彼に、……絢士君に会えるか?」

「はい、是非そうしてください」

「善は急げね!美桜、連絡して」

「私は……」

「そっか、ごめん……」

「ううん。じゃあ取り合えず会社に連絡してみましょう」

美桜はまだ登録したままだった、彼のデスクの番号をかけた。

ー『はい、花菱デパート企画室です』

「お仕事中すみません、麻生と申しますが榊さんはいらっしゃいますか?」

電話の相手が息を飲むのを感じた。

「あの?」

ー『榊はもう当社にはおりません。』

「え?あ、そうか異動……」

ー『いえ、榊は今月付けで当社を退社しております』

「退社?!」

ー『あの……麻生美桜さんですよね?』

美桜が『はい』って答えると、電話の向こうでやっぱりなって彼は小声で呟いた。

「あ、もしかして鶴吉屋さん?」

ー『えっとまあそうですが……いや、覚えていてもらえただけでも嬉しいです』

「ごめんなさい!神宮寺さん」

ー『いいです、鶴吉屋で。それよりも僕、余計なことを言いましたよね?』

「それは……」

ー『すみません!!もしかしてそれでお二人は……』

「いいんです、お気になさらないでください。
それよりも、絢士さんはお仕事を辞めてどうするかご存知ですか?」

ー『冒険に出ると言ってましたが……』

「冒険?」

ー『具体的なことは聞いてないです、お役に立てなくてすみません』

「そうですか……、ありがとうございました」


電話を切ると美桜は二人に聞いたことを話した。

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