猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
おじ様の衝撃と苦悩②
二人を乗せたリムジンが最寄りの駅から少し走って、住宅地の入り口で停まった。
「この先のマンションなんですが、この車では目立つので少し歩きましょう」
美桜の提案に東堂は頷いて車を降りた。
外に出るともう冬の夕方だというのに、どこか温かな空気を感じて、東堂は辺りを見回した。
「彼はここで育ったのか?」
「はい、そう聞いています」
区民に貸し出している畑や近くに大きな公園のあるこの辺りは、高級住宅地と呼ばれる区内の中でも比較的昔から住んでいる人達の家々があり、親しみやすさを感じる
「良い所だ」
「そうですね、来る途中にあった公園でサッカーを習っていたと言ってましたよ」
「サッカーか……」
幼い息子がサッカーをする姿を思い浮かべ、取り戻せない時間の流れに、悔しさと悲しみで東堂の胸は押しつぶされそうになる。
「おじさま、彼は幸せだったと思います。会えばわかりますが、彼が思い出話をする時はいつも優しい笑顔を浮かべていましたから」
そんな彼の話を聞くのは楽しかったと美桜の胸がまた痛んだ。
「そうか……」
美桜は来る途中の車の中で、みゆきさんの事情を打ち明けた。
おじさまはすごく驚いていたけれど、綾乃らしい決断だなって寂しそうに笑った。
首をかしげたら、元々両親のいない綾乃さんにとって、絢士を施設に預けたり、養子にするのは避けたかったのだろうと教えてもらった。