猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
アイルランド
絢士は昼過ぎにアイルランドの首都ダブリンへ降り立った。
外務省の公式データによると、北海道とほぼ同じ面積のこの国は、国民の約87%がカトリック教徒で、日本とは友好関係にある。
母国語はアイルランド語(ゲール語)だが、日常的には英語で通用するようだ。
アイリッシュウィスキーやケルト族なんてことしか思い浮かばなかった絢士は、一年を通して温暖な気候と、一日の中に四季があるという緑の美しい景色をレンタカーを運転しながら楽しんでいた。
初めての国だが日本と同じ左側通行の為、比較的運転がしやすい。
芸術の都パリやロンドンではなく、母はなぜこの国へ来たのだろう?と不思議に思っていたが、ダブリンの主な観光名所を訪れるうちに絢士はケルト文化に魅了された
母の気持ちがわかるような気がした。
母の絵にはどれも妖精やおとぎ話の世界のような魔法がある。
国立博物館を後にして、ホテルへチェックインすると、絢士はみゆきから渡された、初めて見たと言ってもいい母の字をもう一度見た。
みゆきの様に達筆ではないが、丸みのある女性らしい字だ。
明日飛行機に乗り、クレア州のシャノンにあるオマリーコテージと書かれたB&Bへ行くつもりだ。
母がこのメモを書いた時の年齢から考えるとイアンとディリア夫妻は生きていれば、祖父母にしてもいい年齢だ。
もしかしたら、このB&Bはもう存在しないかもしれない。
それでもかまわない。
そこへ行けば何かがわかる、絢士の心がそう確信していた。