猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「彼女は強い女性だった……凛とした強さと天真爛漫な無邪気さの中に孤独を抱えていたんだ。
守ってあげたいと思っていたのに、離れてみると守ってもらっていたのは私の方だったって痛感したよ。
自分を見失わないで危篤の父親の元に戻れたのは彼女のお陰だった……」
「そうですか」
「君にもそういう女性はいるのかい?」
「そうですね……」
絢士はもうこの人に逢うことはないだろうと、思い切って苦しい胸の内を打ち明けることにした。
「よかったら少し話を聞いてもらえますか」
「勿論だ。時間はたっぷりあるんだ」
両親を知らない自分が凄い家のお嬢様だと知らずに彼女と付き合っていた、なんて話は面白がられるかなと思ったけれど背後の男性は黙って聞いてくれた。
「今さら気づいたんですが、本当は彼女の夫として見られるのは構わなかったんです」
他人がどう言おうと、俺は俺だと言える自信がなかったんだ。
何者かもわからない自分が状況に呑み込まれ己を失った時に、美桜が俺から離れていくのが怖かった。
「どんな自分でも変わらず愛して欲しかったのは、俺の方だったんです」
「それで?君はここへ来て何かわかった?」
「そうですね……若くして俺を産んだ母が不幸ではなかったとわかりました」
オマリー夫妻に宛てた手紙や写真は、母さんの喜びが溢れていた。