猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「彼女は…、美桜は元気ですか?」
「自分の瞳で確かめたらどうだ?外の車で待ってる」
「彼女がここに?!」
「ああ。私を心配してと言いたい所だが、本当は君の事が心配だったんだろう」
渋々とは言え、こんな遠くまで来たのは彼に会いたかったのだろう
「ほら、何をグズグズしてるっ!行くぞ!」
「えっ!待って下さい」
東堂は絢士の腕を掴んで立ち上がると、そのままぐいぐい引っ張られて教会の外へ連れて行かれた。
「あれ?ない」
「え?なんですか?」
「私の車がないんだ」
「あっ!」
絢士はすぐ側に停めてあったイアンの車のワイパーに挟んである紙に気がついた。
*****
絢士さんへ
驚いたわよね?
でもあなたなら大丈夫だってわかってる。
絢士さん、時間は巻き戻せないけれど、
どうか東堂のおじさまにチャンスをあげて下さい。
自分に正直で頑固なくらい真っ直ぐで、興味があるものは子供みたいに見に行ったり、買ったりしないと気がすまなくて、楽しく人を驚かせるのが大好きで、時々凄く意地悪になる
ほら、私の知ってるおじさまは絢士さんにそっくりじゃない?
きっと、新しい冒険の始まりになるわ
美桜
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「俺はこんなに我が儘な人間じゃないです」
絢士は読み終わった紙をちょっとムッとした顔で東堂に渡した。
「私だって違う」
読み終わった東堂もまた同じ顔をした。
「そもそも頑固なのは彼女の方です」
「ああ、好奇心旺盛なのも」
「見かけはおとなしいのにすげー行動力があって、ちょっと駆け引きしようものなら手玉にとられるのが落ちで…あの笑顔は…俺の正気や理性を……」
それ以上続けられなくなって、絢士は下を向いた。
「まったく、あの娘は生まれた時から娘同然に可愛がってきたが、息子をこんなに骨抜きにするとは複雑だよ」
「息子?」
東堂の言葉にハッと顔を上げる。
「すまない……その私は……」
「息子と思ってくれるんですか?」
「当たり前じゃないか!父親として認めて欲しいなんて図々しいことは望まない……いや、本当は望んでるが。ほんの少しでいいんだ、美桜の言うようにチャンスをもらえないか?」
「俺、もう30になるんですよ?」
「だから何だ?」
「なんだ?って、感動の再会でハグしたら親子、みたいなのって……えええ!」
まさか本当にハグされるとは思っていなかった絢士は面食らって棒立ちになる。
「デカイな……ちくしょう綾乃!もっと早くこうしてやりたかったよ!」
『綾乃』、と天の母に向かって叫ぶのを聞いて、
記憶の彼方にいる母と突然現れたこの人とで自分達は家族なんだなと、絢士は不思議な気持ちになった。