猫と宝石トリロジー①サファイアの真実


綾乃の通った高校は、本物のお嬢様たちが通う女子高だった。

両親を知らない養護施設育ちの綾乃があの高校に通えたのは特別な芸術科があったから。

選考の基準は未だにわからない。

中学校の美術教師に強く薦められ、
童話 狼と七匹の子ヤギの世界を描いた作品を提出してみたところ、合格してしまったのだ。

中三の夏休みに描いたあの絵は、元々施設の紙芝居の表紙にしようと描きはじめたものだった。

シスターに『子供たちにはちょっと刺激が強いかも』
と言われて、それならばと美術部の課題に提出したのが、美術教師の薦めに繋がる。

昔から物語を想像して描くのが好きだった

特に動物を題材に描くのが。

他人に言わせると、その想像力はちょっぴり方向性が違うようだ。

だって、狼が登場しないと話は始まらないけれど、
狼は悪いやつなのよ。悪いやつは怖くしないとね。

綾乃が合格したあの絵は狼が主人公で、
それは悪魔の化身を思わせる独特なものだった。

そして、何故かあの絵を気に入った学園図書館の司書さんの強い希望により、絵本のコーナーに飾られる事になり、それを見て話しかけてきてのが親友となった玉木実知(たまきみち)だった。

ファンタジーとロマンスの大好きな夢見る少女だった彼女は、綾乃にその手の小説を何冊も押し付けては、一緒に空想を楽しんだ。

だが、本を読むうち綾乃はいつしかこの国に行ってみたいと思うようになっていた。

高校を卒業し、アルバイトを掛け持ちして費用を貯め始めて一年が過ぎた頃、バイト先のホテルのラウンジで神様の巡り合わせのような出逢いに恵まれた。

あの日、イアンとディリア夫妻は結婚30周年の記念旅行に日本を訪れていた。

仕事を終えて次のバイト先に急いでいた綾乃はイアンにぶつかって鞄の中身をぶちまけても、謝ることが精一杯で、B5サイズのスケッチブックを拾い忘れたことには気づかなかった。

翌日、出勤した綾乃を待っていた夫妻は、スケッチブックの中に描かれていた自分達の住むこの国へ来た時は、是非本物の聖なるストーンを描いて欲しいと言った。

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