猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「あの…、そろそろ気持ち悪いから離して下さい」
「そうだな」
東堂が苦笑いして離れると、絢士は大きく深呼吸して東堂を見た。
「父親を受け入れるには年を取りすぎていて、すぐには無理ですが、自分を知るためにもあなたとこれから何かを築けたらいいなと思います」
パッと東堂の顔が笑顔に輝いた。
「ありがとう!」
「さあ、乗って下さい。オマリーさんの所ですよね?」
「ああ、美桜も待ってるだろう」
絢士はオマリー邸まで運転しながら、美桜に会ったら何て言おうかと気持ちが悪くなるほど考えたのに、自分達の帰りを待って、扉を開けて出迎えてくれたのはオマリー夫妻だけだった。
「美桜は?」
「止めたんだけどな」
イアンが悲しそうに首を振ってメモを渡した。
東堂はそれを読んでから、ため息をついて渡されたメモを絢士に見せた。
*****
おじさま、先に帰ります。
身勝手な我が儘をどうかお許し下さい。
これまでお世話になりました。
*****
「ジュンヤにこれをって」
ディリアさんが白い封筒を渡す。
「一体何を考えてるんだ!」
絢士がテーブルに叩きつけられたそれを見ると、白い封筒に彼女のきれいな字で【退職願】と書かれていた。
恐らくここへきて書いたものではないだろう
あらかじめ日本で用意していたんだ。
ああ、そうか
俺たちの関係を知って彼女はそこまで考えていたのか
「このままでいいのか?」
「いいわけありません!」
ついさっき、吐き気がするほど悩んで自信とか後悔とか全部吹っ飛ばして愛してるって言うと決めたんだ。
「取り戻してみせます」
「それでこそ、私の息子だな」
『二人は本当にそっくりだな』ってイアンが笑った。
その日はオマリー夫妻と4人で食事をして、日本に戻ったら明るい未来が待っている、そう思える楽しい夜だった。