猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「伯母様ご冗談はやめて。そんなに家に帰したいならば明日にでも帰りますから」
「なぜ私が冗談を言わねばならないのです」
「イヤですわ、そんな演技伯母様らしくないですって。だってお相手が急に変わったのに、どうやって招待状を出したんです?」
「美桜、あなた何か勘違いしていますよ」
「え?」
「お式は身内だけでしますから招待状も何もありませんよ。披露宴は日を改めて追って然るべき方々をご招待して行います」
「だって式場をって……」
「押さえてありますよ、宮司が『今年の春に美桜の式を行わないと不幸になる』なんていうものですから」
大河内家の式神である神社の宮司は代々よく当たる予言者だと言われているが、伯母様ほどそれを信じている人は他にはいない。
ちょっと、私を振り回さないでよ!
……なんて、罰当たりな事は口が裂けても言えない。
「椿妃と同じ白無垢にしましたよ」
「そんな馬鹿な……」
美桜は信じられない事実に茫然としたが、やがて正気が戻ってくると、自分の持つ財産だけが目当てで結婚しようとする男に腹が立ってきた。
「どこのアホですか?」
「なんですって?!」
「一度も会わずに結婚しようなんて、薄汚い欲望にまみれたアホ男はどこの誰ですかと、聞いたんです!」
「美桜!なんて口を!」
「その腹黒くてお馬鹿な私のお相手に未来の妻が会ってお話ししたい事がある、とお伝え下さい!」
「いいでしょう!待ってなさい」
オババは啖呵を切ったけど、絶対にそんな人はいないんだから、連れて来られるものなら、連れて来なさいよ!と美桜は軽んじていた。
それなのに……
オババの頭はどうかしてるに決まってる!
光彦さんとの事で少しは良いところがあるかもと思った私がバカだった。
「ありえない!」
絶対に間抜けなボンボンよ!
さもなくば、うんと年上のどこかの野心家な副社長とか、株とか不動産で失敗して後がない可哀想な二代目とかね!
とにかく、普通じゃないのは間違いないわ。
美桜は座っていられず、応接室のソファーの回りを行ったり来たりしていた。
「失礼します」
来たわね!
絶対に破談にして追い返してやるんだから!
「どうぞ」
扉を開けて入ってきた男性を見て、
美桜は驚いて穴が空くほどまじまじとその人を見た。