猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「お店はどうしてますか?」
「今はアルバイトを雇ってなんとかね、誰かの退職願はまだ受理してない」
「無責任な事をして申し訳ありません」
辞めたいわけではなかったけれど、でも今思い出の多いあそこに戻るのは無理……
「まあ、その話は今は横に置いてだな。
実は昨夜、色々整理しようと片付けしたんだが……」
「えっ?!片付けた?!おじさまが?!」
美桜は思わず頭を抱えた。
以前、会計士さんに売り物とそうでないものを分けてチェックをして欲しいと言われて店内の整理をした事があった。
おじさまはオーナーとして、もちろん好意で手伝ってくれたつもりだろうけど、はっきり言って迷惑以外の何者でもなかった。
手にしたものを元の場所に戻さないから二度手間、三度手間になる。
「それでな、クローバーの箱がどこかにいってしまったんだよ」
「クローバーの箱ってあの蔦や花の木彫りの彫刻が見事な?」
「ああ、それだ。実はあれは綾乃との思い出の品で…」
「どうしてそんな大切な物を無くすような事をしたんですか!」
「いや、無くしたわけじゃないさ……店のどこかにあるはずなんだよ」
恐ろしく散らかった店内を想像して、美桜はため息をついた。
アルバイトの子が間違えてディスプレイを売ってないといいけれど……
「わかりました」
東堂の顔がパッと明るくなる。
「明日、行って探してきます」
明日は水曜で定休日だから誰も来ないだろうから。
「助かるよ、これ鍵」
渡された小さな鍵たちのじゃらじゃらする音が懐かしくて、美桜は思わず微笑んだ。
「セキュリティー解錠は変わらない」
「はい」
「それじゃあよろしく頼んだぞ!」
帰りかけた東堂が振り返って、美桜にわざとらしく渋い顔をした。
「ああ、それと……零華さんからの伝言で、お相手の方は今日は都合が悪くて来られないそうだ」
「そうですか」
美桜はふんっと鼻を鳴らした。
弱虫!断られると思って逃げたわね!
「じゃあ、明日頼んだぞ」
怒りに歪む美桜の顔を見て東堂は楽しそうに笑って帰って行った。