猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「うわーっ何コレ!泥棒が入ったの?!」
彼女はいつものように、サングラスを上げながらカツカツとヒールの音と共に颯爽とご登場だ。
「ついでに棚卸しだよ」
絢士は手にしている電子パッドを見ながら、瞳の前にあったヴィンテージの懐中時計を避けた。
「何のついで?どうしたらこんな状態に?」
絢士は手を止めて頭をかく。
「俺が知りたいよ、探し物があるとかって…、まったくどうしたらこんなになるんだよ」
「パパね」
彼女が哀れむような顔で首を振った。
「知ってたなら教えてくれよ」
「だとしても酷いわね。ちょっと!ねえ、それで片付けてるつもり?……もはやこれは血ね」
彼女は俺を見てため息をついた。
「いや、まだ始めたばかりだから!」
絢士は持ち上げようとしたセル画の入った箱を置いた。
「いつ日本に?」
「さっき」
まさか東堂ヒナタが妹になるとは想像もしなかったし、彼女がこんなにあっさり自分を兄として受け入れたのにも驚きを隠せなかった。
日本に戻ってみゆきを交えて三人でこれからの事を話し合った。
そこで絢士は初めて、東堂があの医療メーカーの東堂コーポレーションの社長だと知った。
みゆきは『絢士を元の場所に帰す』とか言って突き放したけど。
東堂は『例えそうなっても気持ちは誰にも変えられない』と、時間を見つけては絢士を誘って割烹みゆきに行くようになった。
意見を尊重すると言われても、まだ実感もなく答えが出せない絢士は、無職ではいられないと、美桜の店でアルバイトをしながら考えたいと申し出て今日に至る。
驚いた事と言えば、東堂の秘書の今泉が絢士をすっかり跡取り扱いで、時間を見つけては会社の事をレクチャーしにくる事だ。
邪険に出来なくて仕方なく受け入れていたが、実は興味深くなってきたなんて言ったら、周りはどう思うだろう