猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「ロンドンはどうだった?」
「別に。いつもと変わらずよ。
空港に着いて兄さんが苦戦してるってパパからのメッセージを見て来てみれば、こういう事よね」
まだ慣れないその呼び名に絢士の背中がムズムズする。
「日向……」
絢士はコホンと一つ咳をした。
さんを付けずに呼ぶのにはまだ慣れない。
「何度頼まれても美桜には電話しないわよ」
「わかってるよ!」
「何よその態度。大河内家に居ることは教えてあげたでしょうが」
「あそこが要塞だとは言わなかっただろ?」
「あら、お姫様は奪いに行かないとダメよ」
「何だよそれ!」
「ねえ、そろそろ覚悟を決めたらどう?」
「諦めろってか?」
「違うわよ!まったくバカなんだから」
「ばっ、バカ?兄をバカ呼ばわりかよ!」
「あら、やっと兄の自覚ができた?それならパパの跡を継げるわよね?」
怪訝な顔をすれば、彼女は切れ長の瞳をわざとらしくはためかせてニヤッと笑った。
「美桜がどっかのお坊っちゃまと結婚しちゃってもいいの?」
「それは……」
「もー!ホントに煮え切らないんだから!結局、兄さんが気にしてたのって、あのオババと一緒で家柄とか財産とか?そんなアホみたいな見栄でしょう?」
腰に手を当てて堂々と宣言されたら、立つ瀬もない
「まったく…、そこまではっきり言われると逆に清々しいよ」
絢士は思わず笑ってしまった。
わかってる……
あの日に戻って、泣いて嫌だと言ってくれた彼女をこの腕に抱きしめて謝れるのなら、何だってしてやる。