猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

「いい加減にしないか!!」

東堂がどしどしと歩いてきて二人の頭に、子供にするようにゴツンと拳骨を落とした。

「「イタッ!」」

「さっきから黙って聞いてれば!お前たちが嫌なら会社を継いでもらわなくても結構だ」

「「え?!」」

頭を擦りながら二人は顔を見合わせた。

「ふんっ、お前たちなどあてにするか」

「あら、よかったわ。ねえ?」

「いや、俺は始めからそういう立場じゃないし。でも本当にそれでいいのですか?」

「何よー自分だけいい子ぶらないで」

日向が膨れて口を尖らせた。

それでいいのだろうか?
いいや、駄目に決まってる。

アイルランドで聞いた話では父親との確執を後悔していた。だから必死で、母さんと離れてまで会社を守ったんだと。

「いいんだよ、お前たちの人生を縛るつもりはない」

東堂の顔に寂しそうな影が射したのを、絢士は見逃さなかった。

「日向はどうして嫌なんだよ?」

「さっきも言ったけど、私を見てよ。私は私の世界を13から生きてるの。ずっと誰にも言わなかったけれど、
この際だから、正直に話すわね」

日向の顔が真剣なものに変わった。

「この先いつまでランウェイを歩けるかはわからないけれど、モデルを引退しても生涯この世界で生きていきたいの」

「それならば……」

「社長婦人としての役割は果たせないわ。
だから、結婚までだとずっと諦めてたの。
だけど今は兄さんがいる、ずっとずっと私にも居てくれたらって思った兄が居たの。
兄さんには押し付けるみたいで悪いけど、
神様が私の夢を諦めなくていいよって、いってくれたんだと思ったわ」

「馬鹿だな、もっと早く言ってくれればよかったのに」

最後は涙声になる日向の頭を東堂がよしよしと撫でた。

「絢士も自分の夢を追いかけなさい」

東堂は反対の手で黙り込む絢士の頭を優しくポンッと撫でて笑った。

絢士はその手の温かさに、生まれて初めて強烈に父親の存在を意識した。

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