猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

「何だか腹が減ったな。よし、三人で何か食べに行こう!」

「賛成!」

日向が絢士と東堂の間に入って、腕を組んだ。

「でもまだ片付けが……」

日向がぐるりと瞳を回した。

「その変に真面目なのは、綾乃さんに似たのね?」

「確かに私ではないな」

東堂が笑っている。

絢士は自分を包み込むような空気に胸が熱くなる。

何だろうこの感じ
喧嘩して、怒られて、本気で心配して、
ぶつかって、許しあって、笑ってる

ああ、家族だ

みゆきと過ごした日々に感じたものと、同じだ。

不意に襲ってきた感情の波に絢士は、なすすべがなくのみ込まれた。

俺たちは家族なんだ

「ちょっと!やだ、どうしたの?大丈夫?」

慌てる日向が可笑しくて、だんだん笑いが込み上げてきた。

「やだ!パパ、兄さん壊れちゃったわ!泣きながら…笑ってる……ってパパ……」

声を詰まらせた日向の顔が歪んでいく。
絢士が東堂を見ると、静かに涙を流していた。

「日向、キッチンアカシヤに先に行っててくれないか?」

「いいわ、泣き虫な男同士にしてあげる」

涙を拭って、来たときと同じようにカツカツとヒールを鳴らして日向は店を出て行った。

「絢士、これをおまえにやる」

東堂はレジの側に置いてある片手ほどのクローバーの形をした木箱を差し出した。
細かい蔦や花の木彫りが見事なものだ。

「これは…、えっ?」

東堂は絢士の手の上で蓋を開けた。

「30年前、綾乃に渡そうと思って買ったんだ」

これを探すために昨夜、店をこんなにしたのか。

「ずっと持ってたんですか?」

東堂は寂しそうに笑って、壁に掛かっている夏の絵を見上げた。

「美桜は来月結婚するそうだ」

「え!?」

嘘だろ?!絢士の頭の中が真っ白になった。

「いつかおまえの愛した女性にそれを渡してくれたら、綾乃も喜ぶだろう」

いつかって何だよ
もう美桜は駄目だってことか?
そんな馬鹿な……

「さあ、行こう。日向が待ってる」

絢士は呆然としたまま木箱を握りしめ、背中を押されるようにして店を後にした。


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