猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
サファイアの真実
翌日、美桜は朝早く大河内の家を出た。
久しぶりにお店に行けることで心が弾む。
【silver spoon】
古いものに囲まれた大好きな空間。
運転手さんにお礼を言って、美桜は三ヶ月前まで通った道で車を降りた。
まだ冷える朝、起きたばかりの街並みの空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「おはよう」
入り口の小さなギャラリーにあるガラス細工の動物たちが、変わらず朝日を浴びてキラキラ出迎えてくれる。
「リスとうさぎが売れたのね」
新しいコを入れなくちゃと思ってすぐ、もうそれは私の仕事ではないんだと寂しくなる。
美桜は定休日の札を確かめてから、ロックを解除し店内に足を踏み入れた。
「あら?綺麗じゃない」
恐ろしく散らかった店内を想像して来たのに、中は綺麗に片付けられていた。
「アルバイトさん頑張ったわね」
あっ、
でも前と微妙に場所が変わってるのもあるわね。
美桜はブリキの玩具を並べ直した。
「確かこの辺りに……」
元の位置に戻してあるのなら、クローバーの箱はこのドレッサーにアクセサリーと一緒にディスプレイしてあるはずだけど……
「おかしいわ、ないわね」
もしかして転がっているのかも
美桜は膝をつき床を探し始めると、カタッと何かにぶつかる僅かな音がした。
続いて人の気配を感じて、ドキンと心臓が跳ね上がる。
まさか?!泥棒?!
夢中で探していたから、入り口の開く音に気づけなかったのかしら?
定休日を確認して施錠したはずなのに?
恐怖でドキドキする心臓を押さえながら、なるべく音を立てないようそっと頭を動かすと、猫の傘立ての先に黒の靴先を確認できた。
男性の革靴?
泥棒はあんなピカピカの革靴を履かないわよね?
え、どうしよう……
コツコツという靴音が美桜のすぐ近くで止まった。
「誰だ!そこで何をしてる?!」
その声に美桜は思わず呻いた。
どうして彼がここに来るのよ!
「大人しく出て来い!」
ああ、もう……
このまま隙を見つけて逃げ出せないかしら?
「早くしないと警察を呼ぶぞ!」
美桜は観念して、ゆっくりと立ち上がった。