猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「警察はご迷惑よ、誤解ですもの」
「美桜!」
絢士は夢を見ているのかと思った。
実際この三ヶ月、彼女は毎晩のように夢に出てくるから、そう思っても仕方ない。
大抵はあの日抱きしめた腕の中の感触や、
彼女が出て行った後に気づいて口にしたサンドイッチの味が鮮明に思い出されて、毎朝ボクシングで打ちのめされたような酷い気持ちで目が覚める。
「元気だったか?」
「ええ」
絢士は苦笑いした。
くそっ!
あんな作り笑いは見たくない。
自分がそうさせているのかと思うと余計に胸が苦しくなった。
「何をしてたんだ?」
「ちょっと東堂のおじさまに頼まれ事を……」
あの狸親父!!
何が『今朝は大事なものが届く』だよ!
絢士は頭の中で思い付く限りの悪態をついて、顔をしかめた。
「絢士さんはどうしてここに?」
チッと舌打ちして床を睨む彼に美桜は悲しくなった。
私なんかと会いたくなかったのよね。
「え?ああ、俺は仕事だよ」
「お仕事?」
「俺、今ここでアルバイトしてるんだ」
「ええー!!」
美桜の瞳がまんまるに大きく開いた。
「そんなに驚かなくても……」
その可愛らしさに思わず手を伸ばしてしまいそうになって、絢士は宙で拳を握りしめる。
「だって……」
そんな事おじさまも日向も教えてくれなかったから
「流石に買い付けとかは無理だから、店番しか出来ないけどね。外注はストップしてるから、お得意さん達は困ってるみたいだよ」
「そう…、なんだ」
美桜の頭に何人かのご贔屓さんの顔が浮かんで、申し訳ない気持ちになった。
「でももしかしたら、もうすぐ閉める事になるかも知れない」
「えっ?どうして?」
「俺、東堂さんの会社で働こうと思うんだ」
言いながら絢士は美桜に来客用の椅子に座るよう促した。
「迷惑でなければ少しだけいいから、話を聞いてくれないか?」
「でも……」
美桜は躊躇った。
もう少し彼と居たいと思う反面、一緒にいればいるだけ辛くなるのはわかりきっている。