猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「だよな、……都合のいいこと言ってごめん」
絢士の瞳が悲しそうに揺れている。
おじさまと何かあるのかな?
少しだけ、ちょっとだけ、近況を聞くだけなら……
美桜は躊躇いながらも椅子に座った。
「いいのか?」
「少しだけなら……」
絢士はホッとして、情けないがそれだけで涙ぐみそうになった。
「ありがとう」
きっとこれは東堂さんの…、父親の与えてくれた最後のチャンスなんだ。
絶対に無駄にしない
「アイルランドでおじさまと会えたのよね?」
「ああ、ビックリしたよ。突然 人生がひっくり返ったんだから。今さらかと思ったのに、東堂さんはこんな大きな息子と必死で時間を取り戻そうとしてくれるんだ」
他人事みたいに言うけれど、彼の声に喜びを感じて美桜はホッとした。
「おじさまと上手くいってそうね」
「ありがとうな、今回の事は美桜が助けてくれたって聞いてる」
「ううん、私は何もしてないよ。余計な事をしたと思われてないのならばよかった」
美桜は小さく笑って首を振った。
「みゆきさんも謝りたいって言ってた。初めて会った日に酷い事を言ったって?」
こんなに近くにいるのに、自分を見ようとしない美桜に胸が痛む。
俺はもうそこまで嫌われているのか?
「ううん、あれは仕方がないもの。それに、勝手に会いに行ったりしてごめんなさい。私は気にしてないって伝えてね」
絢士の口から短いため息がこぼれた。
もう会いに行くつもりがない言い方だな。
「直接言ってくれたら喜ぶよ?」
「そうね……」
いつか、という言葉を美桜は飲み込んだ。
「どうしてデパートのお仕事辞めたの?もしかして、私のせい?」
「違う!」
頼むからそんな悲しい顔をしないでくれ。
絢士は彼女の向かいに腰を下ろした。
「本当は異動の話が出た時にも考えたんだ。
ただあの時は、仕事よりも夢中な事があったからさ、別にこのままでいい思ったんだ」
『その夢中な事は聞かなくてもわかるよね?』って美桜の顔を覗き込むと、彼女は少し驚いてから瞳を伏せて横を向いた。
絢士は自分の心が段々冷えていくのを感じていた。