猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「アイルランドへ行こうと思ったのも、美桜のお陰だよ」
「私はなにも」
「母さんの描いた世界を見ることができて、イアンさん、ディリアさんと出会えた。自分が何者なのか知る助けになるかと思って出た旅でまさかの父親と逢えたし、妹まで出来たんだから、美桜には本当に感謝してるよ」
「絢士さんが幸せなら、よかった」
美桜は小さく笑ってうなずいたのを見て、絢士は覚悟を決めて大きく息を吸い込んだ。
「美桜、あの日のこと……別れたあの日に俺が言った事だけど……」
即座に立ち上がって帰ろうとする美桜の腕を絢士は慌てて掴んだ。
「待ってくれ!」
「いやっ!触らないで!」
火傷したかのように腕を払って飛び退いた彼女に、冷えていた絢士の心がついに凍りついた。
「美桜……」
「その話はもう済んでるわ」
「違うんだ」
「何が?私達の住む世界は違うんでしょう?」
「それはそうだけど」
「お願いもうやめて」
美桜はイヤイヤと首を振っている。
「そうじゃなくて」
「お願いだからやめて。もう、これ以上傷つきたくないの……」
美桜のその顔を見た途端、絢士はこの世の終わりとはこういう状態の事だと悟った。
「………ごめん」
俺は最低だ、あの時 美桜は必死に二人の為に出来る解決策を探そうとしてくれた
麻生を捨てるとまで……
張り裂けそうな思いで『愛してる』と言ってくれた彼女を無下にして、俺は自分の事しか考えなかった。
彼女はずっと傷ついて泣いていたんだ
…………あれから、ずっと。