猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
あれ?雨か?
いいや、ここは室内だ。
絢士は頭上から落ちてくる水滴に顔を上げた。
「美桜!!どうした!」
慌てて立ち上がるが、さっき思いきり拒絶されているので手が出せない。
「頼む、泣かないでくれよ」
「だって…、あや…とさんが…あい…してる…って…」
「ごめん。もう言わないから、な?」
そう言った途端に彼女がひどくしゃくり上げて、瞳からまた大粒の涙がこぼれ出した。
「ああ、本当にごめん、俺が悪かった二度と言わないから、な?頼むよ」
彼女を抱きしめたくて気が狂いそうだ。
こんな彼女を瞳の前にして何もできないのなら、
もういっそ誰か俺を撃ち殺してくれ!
「もう、言って……くれ、ないの?」
「え?」
彼女は何を言ってるんだ?
「み、おう?」
「うそっ…だった…の…」
絢士は混乱する頭を必死で整理した。
嘘じゃない!さっき言った事は全部本心だ。
まさか、美桜は俺に愛してると言って欲しいのか?
絢士は改めて瞳の前で泣く彼女を見た。
『絢士さんの馬鹿!』と言いながら、子供みたいに泣きじゃくっている。
美桜に言われるなら馬鹿だって認める!
だから、どうかこれは俺の勘違いじゃないと、
おまえの思っている通りだと言ってくれ。
絢士は喜びではち切れそうになる胸を、ぎゅうっと押し込めた。
「美桜」
絢士は恐る恐る両腕を広げた。
美桜は素直にその胸に飛び込んだ。
「二度と馬鹿な事は言わない、だから俺を許して」
息もできないほど強く抱き締められて、腕の中で何とかうなずくと絢士がおでこを合わせた。
「もう絶対に離さない」
美桜は瞳を伏せたまま微笑んだ。
「愛してる」
笑みを更に深くすると、彼の両手が頬を包んだ。
「美桜が自慢できるような夫になれるよう努力を惜しまないよ」
閉じた瞼越しに、自分を見つめる彼の視線を感じる。
「ここで初めて逢ったあの日、俺はもう宝物を見つけていたんだ」
止まりかけた涙がまた閉じた瞳から溢れ出す。
「美桜」
心臓が壊れそうにドキドキと大きく胸を打っている。
そっと瞳を開けると彼も涙を流していた。
絢士の両手が震えている。
真っ直ぐに向けられた真剣な瞳を見つめ返す。
「俺と結婚してくれないか?」
唇がわなわなと震えて上手く言葉にならないから、
美桜は何度も彼を見てうなずいた。