猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「昨日、東堂さんが『美桜は来月結婚する』なんて爆弾発言したんだ。美桜の事は諦めろ、みたいな言い方されてさ……」
「それは……」
「でもどうしても諦めきれなくて、陽人に連絡して研究室まで会いに行ったら、それはそれは冷たい対応をされてね」
物臭兄貴も妹を溺愛してるのを忘れてた俺が悪かったんだけど。
陽人のやつすげー冷静にマウスと一緒に実験台にしてやるとか言って、本気で何か怪しい薬を飲まされそうになって大変だった。
「でも、ちゃんと話したらわかってくれて……
『兄貴に話してみろ』って、それで今朝、麻生家に行ってきたんだ。邪悪な兄貴は忙しい人だから朝イチを狙えって教えてもらってさ」
「えっ!今朝?」
「ああ、さっき。門前払いされると思ったのに、家政婦さんがあっさり通してくれたよ」
きっとタキさん、日向から何か聞いていたのね。
「邪悪な兄貴さ、朝からイケメンで驚いた」
「蓮はいつだってイケメンよ」
「ちぇっ、そこは『絢士さんの方がイケメンよ』だろ」
「あっ、ごめんなさい」
「謝られるのは複雑……ま、いっか。で、ちょっと一発喰らっただけ」
絢士は脇を擦って笑った。
本当は石にされそうな冷たい視線で睨まれて、
『来るのが遅い!』って散々説教された挙げ句に、
『覚悟を決めろ!』って殴られたんだけど。
「大変!直ぐに手当てしなくちゃ!」
「心配してくれるのは嬉しいけど……」
「ダメよ!折れてはいないと思うけど…もう!蓮たら!酷いアザになってないといいけど……」
美桜の慌てぶりに絢士のプライドは傷ついた。
自分でもアザにはなっていると薄々感じていたが、彼女の前では絶対に認めたくない。
「えっ?!ちょっと!絢士さん?」
絢士は美桜を膝の上に乗せて抱きしめた。
「ここさ、何か思い出さない?」
「なにを?」
「こうしたら思い出すかな?」
絢士は彼女を横抱きからひょいっと、向かい合う体勢に変えた。
「馬鹿な事はやめて……」
頬を赤らめながら怒る彼女に絢士はたまらなくなる
「そんな顔されると止められなくなるんだけど」
絢士が顔を近づけた。
美桜はやめてと言うつもりが、気づけば彼の首に腕を回して重なってきた唇を受け止めていた。
「んっ」
一度離れてから、優しく啄むように何度も重ねられるうちに甘い吐息がこぼれだす。
「美桜…愛してる…」
低い声に耳元で囁かれて、蕩けるように身体から力が抜ける。
「私も……」
美桜はうっとりと身体を預けて抱きついた。
「うっ」
「あ!ごめんなさい」
「あーくそっ!」
「やっぱりちゃんと手当てしないと」
「平気だって!」
こうなったら意地でも美桜に見せるものか
「そう言えば美桜は何を探してたんだ?」
絢士は話をそらすことで痛みを悟られないようにした
「そうだ!忘れてたわ!おじさまから頼まれてたの」
美桜は慌てて膝から降りた。
『ちぇっ』という彼の舌打ちは無視して、店内へ早足で戻る。