猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

「多分、東堂さんが俺達を会わせる為についた嘘だから探さなくていいと思うよ」

後から歩いてきた絢士は苦笑いしている。

「そうなの?」

「ああ」

「でも本当にないのよ、もしかして絢士さん売ってしまったの?」

「ん?」

「前はここにあったの」

美桜はドレッサーを指した。

「どんなものだ?」

「クローバーの木箱なの。開け方がわからなくて中は見られないけど、表面の細かい蔦や花の彫刻が素敵で、大きさは……」

「これくらいのやつだろ?」

美桜の言葉を引き取って絢士は片手で示した。

「そう!やっぱり売ってしまった?」

「まったくあの人は……」

「絢士さん?」

ため息混じりに首を振って、絢士は上着の内ポケットから木箱を出した。

「これだろ?」

「それよ!良かった、持っていたのね」

絢士はこれを渡された時からずっと考えていたことがある。

あの日俺がこの店に入ったのは運命だったんじゃないかって。

母さんの絵…、母さんが俺をここに導いたのかも知れないと。

だから……

「美桜、ちょっとここへ来てくれないか」

絢士は夏の猫の絵の前に立って美桜と並んだ。

「この絵の場所が実際にあるなんて思わなかったわ」

「ああ。母さんは魔法を信じてたんだな」

『そうね』と微笑む美桜の瞳を見ながら、絢士は教わった通りに木箱の蓋を開けた。

「嘘、どうやって…、え?それは……」

美桜は驚きで言葉を失った。
木箱の中には、猫の瞳と同じサファイアの指輪が入っていた。

「30年前に東堂さん…、いや、父さんが母さんの為に買ったものだ」

「そんな大切なもの……」

美桜は何とか声を出した。

「母さんは美桜がしてくれたら喜ぶと思う」

絢士は美桜の左手を持ち上げた。

「さっきの返事、もう一度ちゃんと聞かせてくれないか?」

美桜は瞬きで涙を払った。

「絢士さんと結婚します」

満面の笑みで指輪を嵌めながら、絢士は優しいキスをした。

「さあ、新しい冒険の始まりだな」

「冒険?」

「ああ。美桜とのこれからを思うと、冒険のようにワクワクするんだ」

絢士は彼女の頬を両手で包み込んだ。

母さん、俺は見つけたよ
彼女は俺を幸せな気持ちにしてくれるお姫様だ

「絢士さん、愛してる」

美桜が笑って絢士の上に手を重ねる。

「愛してるよ、俺のお姫様」

二人の唇が重なり甘い空気が流れるのを、サファイア色の瞳をした猫が笑って見ていた。




Fin

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