猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「それから…、えーっと、……父さん」
絢士を見る東堂の瞳が大きく見開いた。
きっかけだ。
父と認めているのに呼べないのは、きっかけがなかっただけだから。
「これからはそう呼びます」
東堂は唇を結んでうなずいた。
「昨日、一つ思い出した事があります」
「なんだ?」
「エメラルド色の猫の絵は月子さんの所にあると思います」
「月子さん、とは?」
「それが昨日、美桜と宝石の話をしていたらエメラルドと言う言葉に急に【恩人の月子さん】って呼んだ母さんの言葉を思い出したんだ」
「そうか……」
「見つかる気がするって言ったら笑う?」
絢士は自然に砕けた口調になっていた。
「いいや。30年前の綾乃…、母さんが使った魔法は今、効き始めたんだろう」
「遅すぎだ」
「そうでもないさ。人生は長い旅だ、予測の付かない冒険の方が楽しいさ」
「そうかもね」
「さあ、おまえの見つけたお姫様が待ってる」
「俺のお姫様は……」
白無垢の美しい花嫁姿の美桜を見て、絢士は言葉を失った。
「美桜……すごく綺麗だ…」
「絢士さんも素敵よ」
見つめ合う二人に、後ろから『コホン』と日向が盛大に咳払いした。
「さあ、早く写真を撮らないと式に遅れるぞ!また零華伯母様に愚か者扱いされる」
部屋に入ってきた陽人の言葉に、絢士は思いきり顔をしかめた。陽人と美桜、オババの愚か者仲間に絢士が加わったのは言うまでもない。
涙ぐみながら入ってきたみゆきと志都果、そして最後に宮司と零華も来て、全員が二枚の絵の前に揃った。
「では、こちらに視線お願いします」
カメラマンがレンズを覗いておや?っと首をかしげた。
「ヒデさん、どうかした?」
日向にヒデさんと呼ばれた男は、夏の絵の猫が笑った気がしたが、首を振る。
「いや、すみません、気のせいです。撮りますよ!」
もう一度レンズを覗くと、
そこは幸せに満ちた家族の笑顔が写っていた。