猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
ディナーの交渉
絢士は支払いの手続きを終えて、
猫を包む彼女を見ていた。
自分が知っている品物を包装する作業と言えば、新人の頃、繁忙期に駆り出されてお中元やお歳暮をいわば機械作業のようにこなすものだ。
それが彼女は口元に笑みを浮かべながら、猫をやわらかい布で磨き、黒い布袋に入れ白くほっそりとしたきれいな指で丁寧に包装をしている。
その姿に思わず魅入ってしまう
とても素敵なものを買った気分になった。
「絵を見せる前に食事をしたいと思うんだけど?」
「今日?!これから見にいってもいいの?」
「ああ、君に予定がなければね。連絡してから来ようと思ったんだけど仕事が忙しくて、約束は出来そうもなかったんだ」
「気にしないで。無理なお願いをしているのは私の方だから」
「で、俺はお腹が空いているんだ」
それは本当だった。
絢士は今日この店に来るために、昼食をコンビニのおにぎりで済ませ仕事をこなした。
ここ数日は彼女の事が気になって仕事に集中できない日々だった。
絵のことは気が進まないが、
さっさと片付けて彼女との関係を進めたい。
キャンセルになった店舗の変わりを探し続け、ようやく決まってひと段落ついたのが今朝の長崎。
羽田に戻った時に鳴っていた仕事用の携帯電話と自分を呼び止める神宮寺の声は聞こえないふりをして、空港からここへ直行してきたのだ。