猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
絢士が店に入った時には、彼女の机の周りだけ書類が散らばり、嵐の過ぎ去ったあとの残骸のようになっていた。
「なにがあった?」
見ると、美桜はまだ瞳の前にあるものを右手で片っ端から投げつけていた。
「何をしている!」
絢士はびっくりして彼女に駆け寄った。
「止めるんだ!」
彼女の手を押さえて絢士はぎょっとした。
魅力的だと思っていた愛らしい瞳から大粒の涙が溢れている。
「何があった?」
まだ暴れようとする彼女を腕の中に閉じ込めた。
「しー。いい子だから、落ち着くんだ」
「離して!!いやっ!!」
「痛っ」
彼女の左手に握られていた何かにドンと胸を押されて、絢士は顔をしかめた。
美桜はハッとして、叩いた所を擦って謝った。
「ごめんなさい」
大事そうに抱え直しているそれを見て、絢士は瞳を開いてから、にっこり笑った。
「それは守ってくれたんだ」
「えっ?」
美桜は自分の抱えているものを見て驚いた。
絢士を叩いたのはブルーの小さな地球儀だった。
「気に入ってもらえて嬉しいよ」
「これは……」
絢士の顔が近づいてきて、おでこに優しく唇をあてられた。
美桜は瞳を閉じてそれを受け止めると、不思議と荒れ狂っていた感情がゆっくりとなだめられていく。
その時、ガチャっと入り口の開く音がした。