猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
遊ばれてる?!
「みーおーなんで電話に出ないんだよ?」
彼女を馴れ馴れしく呼ぶ声に、絢士はハッと振り返った。
「あっ」
入ってきた男と瞳が合ったと思ったら、次の瞬間、絢士は胸ぐらを掴まれていた。
「やめて、陽人!」
彼女が男の名を親しげに呼ぶのを聞いて、二重のショックでやり返す気力が奪われた
「これは全部、私が一人でやったの」
男がゆっくりと首を回して彼女を見る。
「その人は止めようとしてただけ」
必死な彼女を見た男は悪態をついて俺を離した。
「すまない」
男の纏っていた恐ろしげな空気が、嘘のように穏やかなものになった。
絢士は敗北を感じながら、男を見た。
長身でよく見れば整った顔立ちをしているのに、何故か服はよれよれのチェックのシャツと履き古したデニムで、無造作な髪型も見方によってはボサボサと言えなくもない。
その髭はワイルド系なのか、無精髭か?
こういうやつに母性本能を擽られるんだろうな。
付き合っている男はいないと言っていたが、俺のように彼女を想う男がいないとは言っていなかった。
そんなこと、言うわけないか
じゃあ、あのキスは何だったんだよ?!
「癇癪を起こしてこんなことをするなんて、三つの子供と一緒じゃないか」
口調は呆れているのに、心配そうに彼女の頭を撫でる手には深い愛情が感じられた。
「だって……」
甘えるような彼女の口調に、居たたまれなくなって絢士は口を開いた。
「俺は帰るよ」
「待って!」
美桜の慌てようと、明らかに気落ちしている男を見て、陽人は悪い顔で笑った。
「迷惑をかけて悪かったね」
陽人が美桜の肩をグッと抱き寄せて、愛しげに頭に顎を乗せた。
「ちょっと!陽人!」
「いいえ、俺は何も……」
「こいつは見かけと違って怒ると気性が荒くてね」
「陽人、それ以上言ったら本気で怒るわよ」
「ほら、怖いでしょう?」
「そうですかね……」
はははっと無駄に乾いた笑いが絢士の口からこぼれた。
うぜーよ!俺の前でいちゃつくな!
絢士は気力を振り絞って苛立ちを押さえ、回れ右で入り口へ向かった。
「陽兄さん、いい加減にして!」
絢士の足がピタリと止まった。