猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
ホントは意地悪
「えっと……」
急に仲よくなった、陽人と彼に戸惑いながら
美桜は自分の起こした嵐を見てため息をついた。
少なくとも、ここにいる二人に何があったのかを話すつもりはない。
「ん?絢士に何かムカついたのか?」
「はっ?!え?俺?」
ああ、もう。
陽人ったら、すごく彼を気に入ったのね。
そうでなければ何でも面倒臭さがる人が、こんなに絡んだりしないもの。
「違うから!!それよりも、陽人は何の用なの?」
瞳を細めた陽人から逃げるように美桜は屈んで、自分が投げたものを拾い始めた。
「明日、研究室の講義がある」
とりあえず、陽人は追求を諦めてくれた。
「それで?」
「うん、その後の何とかってパーティに行かなければならなくなった」
「もう、いい加減自分で何とかしてよ」
「やだ、面倒臭い」
「だって私これからここを片付けないといけないし……あっ!そうだわ!榊さんにお願いしたらいいわよ」
いま気づいたけれど、スーツじゃない彼。
あら、ラフなスタイルも素敵。
白いTシャツの上にとてもきれいな麻っぽいカーディガンを羽織っている。
今日はお休みなのかしら?
「なんで絢士に?」
「榊さん、花菱デパートの人なのよ、花菱デパートここから近いし!榊さんなら、私よりいいと思う」
言い始めてハッとする
自分がどんなに図々しい事を言っているのか気づいたけれど、口が止められないから
「ほら、見た感じもとても素敵だし……」
美桜は段々尻窄みになっていく
「話がまったく見えないけど、言いたい事があるから、順番に言う」
少し怒った顔の絢士は美桜の瞳をじっと見た。
「……はい」
「まず、お兄さんが絢士って呼ぶのになんで君が榊さんなんだ?」
『ぶっ』と陽人が盛大に吹き出した。
「陽人!」
「まずそこからって、くくっ……絢士やっぱりおもしろい!」
「俺はおもしろくないけど」
いたって真面目な顔の彼に、陽人も笑いを引っ込めた。
「美桜、名前を呼んでやれよ」
呼んでやれって言われて、そう易々と言えるものですか!!
だいたい何でこんな展開になってるのよ、
もう!!信じられない!
二人の男がじっと美桜の言葉を待っている
言わなければ許してもらえない空気に
美桜は盛大なため息をついた。
赤くなる頬を押さえて、小さな声で呼びかけた。
「……絢士さん」
「うん、まあ今はそれでいいや。じゃあ次。見た感じが素敵な俺は何をお願いされるんだ?」
「うっ」
この人けっこう意地悪だわ。
美桜は笑いを噛み殺している陽人を睨んだ。