猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
暴れ馬で借りてきた猫
「ふう」
美桜は絢士を送り出してひとつ息を吐いた 。
「片付けないと」
身体が機械的に動いて、自分が起こした嵐の後片付けを始める。
「ごめんね」
机の下に落ちた陽人がくれたへんな牛やブタのボールペンとかわい過ぎて使えないパンダの消しゴムに謝った。
「みんな無事ね」
日向がロンドンのお土産にくれた可愛らしいアンティークの七人の小人の置物……違ったわ、六人だった。
おこりんぼだけ陽人が持っていったんだ。
「あーよかった、割れてない」
パリで蓮にせがんだ猫のペーパーウエイトにすみれの絵がお気に入りの温湿度計。
「やだ!」
卒業記念におじさまに頂いた大事な万年筆がこんなところに。
「はあ、こっちはダメそうだわ」
とりあえず、中身は大丈夫そうだけど携帯電話、画面が割れている。
「もうやだ……」
胸の中は悔しさにやるせなさ、忘れたい過去……
そんな想いがぐちゃぐちゃになってぎりぎりいっぱいのところで今にも溢れ出ようと波打っている。
何で今ごろになって……、彼と別れてもう一年になる
三年もの間、私は彼に上手く利用され騙され続けていた。
言わせてもらえるなら、誰だって、二十歳の頃は愚かな事をするし、痛い経験の一つもない人生なんてつまらない……今なら、そう言えるけれど。
二十歳の頃は、周囲からちやほやされる毎日を鬱々としながらも、プライドを高くして過ごしていた。
馬鹿みたい!
思い出したくもない忌まわしき過去の自分。
わかっていたのに。
みんな私じゃなくて、私の持つ背景に興味があるんだって。
それを自覚した21歳の時だった、大学に彼が現れたのは。
ロンドンの留学先から戻ったばかりだという三つ年上の彼はどこか異国情緒を漂わせて素敵だった。
すぐに女の子たちは彼に夢中になった。
そう、もれなく私も……
崇めるように私の機嫌を取る身近の男性にはない、でも兄とは違う洗礼された大人な彼に夢中になるのに時間はかからなかった。
彼にしてみたら、周りと違う自分に自信のある態度で接すれば、それを新鮮に感じて気を引く事ができた私は、扱い易い女の子だったのだろう。
『今も同じだと言ってくれよ』
彼の声がよみがえる。
「もう!馬鹿じゃないの!どうしてさっさと切らなかったのよ!」
手元の物を投げようとして、ハッとした。
青い硝子の地球儀
私のために忙しい中、選んでくれたもの。
これを見ると胸の奥が温かくなる。
子供の頃、忙しい父はどこかへ出掛ける度に必ずお土産を買ってきてくれた。
アンティークのブローチや綺麗な刺繍のハンカチ、小さな動物のオルゴール……
離れていても私を思ってくれているんだと、それらを見れば自然と笑顔になれた。
だから、絢士さんから包みを渡されて開けるようにうながされた時、本当は涙が出そうだった。
誰かに大切に想われている、そう思えるだけで幸せだってこの硝子細工は……ううん、絢士さんは思い出させてくれた。