猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「西園寺が電話してきたの」
日向は無言で立ち上がると、カップの紅茶を流しにサッと捨てて、代わりにワインセラーから一本ワインを取り出した。
「ひな!それはおじさまがっ」
先週『いいもの見つけた』って喜んでいたヴィンテージ
ああ!開けちゃった……
「パパのものは私のモノよ」
日向は馴れた手つきでコルクを開けて、そのままカップに注ぐとがぶ飲みした。
彼女なら一人で一本空けても、平然とランウェイを歩けるだろうけれども。
「今日お仕事はもうないの?」
「午後から休みよ、それよりも続けて。あの最低男は海の向こうから、何て言ってきたの?」
「一ヶ月前に日本に戻っていたらしいわ」
「どこ?今から叩きのめしに行ってやる!」
「出来るならそうして」
てっきり、関わらないでと言われると思った日向は意外な顔をした。
「みお?」
美桜は長いため息を吐き出した。
「あの人、私がまだ独りなのは自分を忘れられないからだって言ってたわ」
「はあ?!」
「待たせてごめんな、ですって」
言葉にできない怒り
まさにそんな顔をして日向は『キィーー』っと叫んだ。
「それで何て言ってやったの?!」
「なにも」
「は?」
「嵐が起きたの」
美桜はまだ完全に片付けていない表を手で示した。
あんな人に夢中だった愚かな自分への怒り、それで癇癪を起こした。
「陽人の言う通り、三歳の子供と一緒よね」
美桜は自嘲気味に笑う。
「オーケー、暴れ馬になったのは仕方ない」
大きくうなずいて、日向は今度は味わうようにゆっくりワインを飲んだ。