猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「やだ、美味しいこれ!」
今回は良い傾向じゃない?
少なくとも美桜はいま怒っているもの。
自分を呪って、責めて、泣き晴らした挙げ句にまともな恋愛をあきらめると宣言した時とは違う。
ようやく、私も慰めるだけじゃなくてあの男を罵倒できるって訳ね!
「信じられない……そうでしょう?」
言いながら美桜の瞳から新たな涙が溢れだす
日向の頭の中で、あの男の抹殺計画が始動し始めた。
「あの男は図々しさにかけては、それこそ天下一品だったじゃない」
「ねぇ、ひな、あの人最後に私にこう言ったのよ」
「もうそれはいいわよ!」
美桜は止める日向を振り切った。
「美桜、君みたいな見かけだけ派手な女性とは将来を考えるのは難しいだろ。実際の君の性格は地味で古いものが好きなんて。そんなつまらない女は俺とは釣り合わないってそろそろ気づけよ」
一言一句、忘れたくても忘れられない記憶
胸に受けたあの衝撃は今でも思い返せる。
信じていたのに……
「誰の為に派手に着飾っていたと?誰がそうしてくれって頼んでいた?」
「ホント、バカ男よあいつは!」
「違うと思ったのに……結局あの人は私を利用しただけだった。逆の地味な服装で派手な性格なんてありえないわよ」
「あら?それこそみお、あなたじゃない。あの馬鹿男は気づかなかったのか…ううん、違うわね!美桜の心を奪えなかったから本来の姿を見ることができなかったのよ」
「私、派手な性格なんかじゃ……」
日向は眉根を寄せる美桜に追い討ちをかけた
「まあ、最近の服装は地味を通り越して喪中の未亡人みたいだけれどね」
「嘘、そこまで酷くないわよ」
美桜は自分の服を見下ろした。
今日は黒のシャツワンピを着ている。
60年代風のクラシカルなワンピース。
五番街のブランド店の前で朝食をとる有名な映画の大好きな女優さんのイメージ。
確かに、最新のブランドファッションを身に纏っているスーパーモデルとは雲泥の差だけども。
「ともかく、またあの男から連絡がきても絶対に無視しなさいよ!」
「わかってるわ」
「じゃあ、次は借りてきた猫の方ね」
「えっと、それは……」
「榊 絢士でしょう?」
「あっ!!」
「何よ?!」
「もうすぐ戻ってくるわ」
「誰が?」
「その榊 絢士さん」
「へ?」
美桜は早口でつい先程の出来事をかいつまんで話した。