猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
そう言うと思ったわ
絢士はClose になっている札を不思議に思いながら、扉を開けた。
「ただいま?」
なんて声をかけていいのか迷って結局そう言った。
「あれ?いないのか?」
「いま!いま行きます!」
奥から焦った美桜の声が聞こえてきた。
奥に何があるのか物凄く興味が湧いたが、あの口調は、ここで待っていた方が良さそうだ。
絢士はさっきよりは片付いた彼女の椅子の上に揃えてきた服を置く。
手持ち無沙汰で、机の上の無造作に置かれていた小人を並べ直してみる。
「ん?一人足りないな」
絢士が屈んで小人を探し出した、美桜と日向が出てきたのはそんな時だった。
「何をしているの?」
「おこりんぼを探してる」
「おこりんぼだった美桜はもういないわよ」
「ちょっと!日向!」
「へっ?』
絢士は顔を上げて、からかいを含んだ声の主を見て驚いた。
本店の一階化粧品売り場に大きく飾られた等身大パネルのゴージャスな美人がそこにいる。
「東堂ヒナタ?」
「あら嬉しいわ、私をご存知みたい」
「失礼、東堂ヒナタさん」
咳払いしてから、絢士は立ち上がった。
「こんにちは、榊 絢士さん」
「なぜ俺の名を?いや、言わなくていい。
女性は『ちょっと…』って言って化粧室に行けば、大抵の知りたい情報が何だって手に入るんだろ?」
「よくご存知ね。どうやっているかはCIAだって知らないはずよ」
「彼らだって知りたいなんて思わないさ」
初対面とは思えない軽妙な二人の会話に、美桜は呆れてぐるりと瞳を回した。
「紹介する必要はないみたいね」
絢士は美桜を見て眉根を寄せた。
『な、なんですか?」
「泣いてたんだろ」
絢士が美桜の頬に手をあててありもしない涙を拭った。