猫と宝石トリロジー①サファイアの真実


20分ほど乗って駅で降りると、案内にあった歩いて10分ほどの大きな植物園へ向かう。

「来たことある?」

彼女を振り返ると、黙って首を振られた。

「ん?疲れた?」

心なしか彼女の顔が不機嫌だ。

「違うわ、絢士さんが私のことを忘れているんじゃないかって、試していたのよ」

彼女のすました顔を見て、絢士は頬の内側を噛んでにやけそうになるのを我慢した。

「言ってくれればよかったのに」

「いやよ、あなたの足が長いことをわざわざお知らせするなんて」

絢士は堪えきれずに吹き出した。

彼女の隣に戻ると、手を取ってしっかり繋ぎ合わせる。
こういうベタベタしたのは苦手だったはずなのに美桜が相手だと自らそうしたくなる。
というより、彼女は俺のものだと常に主張していたい。

「植物園には何があるの?」

「宝探し」

「珍しいお花とか?」

「そんな感じだと思うよ」

「来たことがあるのよね?」

絢士が首を振った。

「いつか行こうと思っていたんだ」

「誰と?健全なデートで?」

眉根を寄せる美桜に絢士は笑ってまた首を振る。

「一人で……または、美桜と」

「ムカつく人ね」

「でも大好きだろ?」

「誰がそんなこと言ったの?」

絢士は微笑んで大袈裟に驚くふりをする彼女を引き寄せた。
周りにさっと瞳を配って誰もいないのを確かめてから、素早く口づけた。

「俺が言っただろ、大好きだよ美桜」

顔を赤くする彼女を見ながら、絢士は始まったばかりのこの関係が向かう先に何があるのか、じっくり考えなければいけないのかもしれないと感じていた。


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