猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
植物園に着いて入館料を払った絢士さんから地図と鉛筆を渡された。
「所々抜けてる植物の名前を探すと、ゴールで花の種か苗がもらえるんだって」
「おもしろそうね」
3つの温室と4つのテーマに分かれたお庭を回りながら、草花や木を見て歩く。
美桜はこういうのは花の名前に詳しくなくても、簡単にわかるものを探すのだとたかをくくっていた。
確かに一問目は種の絵のヒントから、ひまわりと簡単にわかった。
二問目も同じく朝顔と簡単だった。
三問目の梅の樹はヒントが緑の実でわかったのだけれど、四問目の銀杏はヒントの実の絵だけでは少し苦労した。
そして五問目……
ヒントにあるのは咲いた花の絵。
このエリアの庭の樹は、今はどれも花をつけていない。
「うーん、これって桜?」
絢士が美桜に花の絵をよく見えるようにした
「違うわ、ピンクだからって…、桜の花くらい知ってるでしょう?」
「まあね」
「これはたぶん……」
美桜は駆けていき、その樹の葉っぱを見て確信した。
「この樹よ、花蘇芳」
「はなずおう?」
「父の名前、蘇芳(すおう)っていうの」
「そうか、君の家族は花の名前がついているんだったな」
自宅の中庭で春に咲く父の樹、花蘇芳の葉はこれと同じハートの形だ。
そこは父と母のお気に入りの場所だった。
二人は家にいる時はいつも中庭がよく見えるテラスで話をしたり、散歩をしていた。
美桜の胸に温かいものが込み上げてくる。
絢士さんはまた忘れていた大切な想い出を私に思い出させてくれたわ。
「私と兄の名はこの樹と、共通している事があるの」
ー『おまえ達の名前をつける時は、悩んで悩んでいつも自分の樹を見て気づくんだ』
瞳を閉じれば優しく語る父の声が心の中によみがえる
ー『だからおまえには同じ季節に同じ色で私より美しく咲く花の名にしたんだ』
そうか、美桜とは花の色が一緒なんだな」
「ええ」
「お兄さんはれんだっけ、蓮華?」
美桜はハートの葉っぱを拾うと、子供の頃と同じようにクルクル回した。
ー『正確には蓮華じゃなくて睡蓮【すいれん】の蓮なのよ』
母が笑って言っていた。
耳を澄ませば、その声がすぐ隣から聞こえてくるような気がする。
心地良い春のそよ風と母とお揃いのふんわりした花柄のワンピース
今日帰ったら蓮を誘ってあそこへ行こう
久しぶりに両親の話がしたい。