猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「俺には蓮華と睡蓮の違いがわからないよ」
「それはね」
美桜は振り返って絢士に葉っぱを渡した。
花蘇芳のそばにある池には、今年もきれいな睡蓮の花が咲いている。
彼と同じことを問う父に、大きなお腹の母は教えてあげたんだって言っていた。
ー『蓮【はす】の葉っぱはまん丸だもの、睡蓮はハートの形をしてるわ』
睡蓮の葉っぱは切れ目があって、見ようによってはハートに見える。
父と兄は同じ形の葉をつける。
花は違えど同じ形を持っている。
正にその通りになった。
蓮はどちらかと言えば顔は母に似ているけれど、考え方は父そのものだ。
美桜は母が言っていたことを絢士に教えた。
「へえ葉っぱがね。面白いな、他には?お祖父さんは何ていうんだ?」
「祖父は婿養子だったから違うのよ、祖母が百合絵【ゆりえ】曾祖父が楷【かい】楷の樹は……ここにはないわね、母がたまたま椿妃【つばき】だったの」
「かい?あれ?ちょっと待てよ……名字は麻生だったよな、麻生すおうとか、かいってどこかで……」
いけない!
お喋りが過ぎたわ!
また彼の魔法にかかってしまった。
彼はどうしてこんなに私をお喋りにするの?
美桜は内心の動揺を隠して、さりげなく絢士の頬に手をかけた。
「私のことばかりじゃなくて、絢士さんのことも教えて?」
今日武器として使える(実際は違う表現だったかも?)と教えられた瞳をしてみた。
今回は甘えるような声というオプションも付けて。
「俺のこと?」
一瞬にして、彼の頭の中が切り替わるのが見てとれた。
企みが成功して、くすくす笑いそうになるのを唇を噛んで横を向くと、彼の手に顎をつかまれてまっすぐ見つめられる。
「わかってそれをやったとしたらお仕置きが必要だな」
警告するように瞳を細めた彼が顔を近づけてきて、胸がドキドキ高鳴った。
人もまばらな夕暮れ近い庭園だとしても、公然で堂々とそんなことができるわけないと、美桜は期待する胸の高鳴りを隠してとぼけてみせる。
「わざとじゃないの、自分の好きな人の事を知りたいのは当然よね?」
彼は参ったと上を向いて、また私の手をしっかり握った。