猫と宝石トリロジー①サファイアの真実


人通りの少ない道を駅に向かって歩きだした。
絢士が子供みたいに繋いだ手を前後に大きく振る。

「家はどこ?」

「えっ?」

「だから、家まで送るよ」

そうか、どうしよう……
ここでお別れという訳にはいかない

「まさか家の最寄りの駅も知らないのか?」

駅?そうよ、駅!
駅でなんとか誤魔化せばいいわ

「うぐっ」

美桜が駅名を言うと、彼の口からうめき声みたいなものが漏れた。

「薄々気づいていたんだが」

そう前置きして彼が恨めしそうな瞳をした。

「な、なに?」

「美桜、お嬢様だろ?」

どうして?駅名で私がASO の人間だとわかってしまうの?!美桜の頭の中はパニックになった。

「ごめん、嫌な言い方だった?」

絢士は慌てて謝った。
彼女の瞳が今にも泣き出しそうに揺れている

美桜は何か言わなくてはと思うのに、喉が張り付いて言葉が出てこない。

心がものすごい恐怖に怯えている。

正直にASO の人間だと教えたら彼はどうするだろうと前に日向と話したけれど、今はそんな気安いものじゃない

彼に去られるのは絶対にイヤ!
それならば利用してくれた方がいい
でもわかる、絢士さんはそんな人じゃない

どうしたらいいの?
頭の中がぐちゃぐちゃだ。

「ごめん、本当にごめん」

絢士は内心で悪態をついた。

まさか、お嬢様が地雷だとは思ってもみなかった。
彼女は見るからにお嬢様っぽかったし隠しているようにも思えなかった。

何がいけないんだ?


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