猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「今までどんな奴と付き合ってきたんだよ」
「絢士さん以外は忘れました」
自分でそう言って、あの人からの電話のことがすっかり頭から抜け落ちている事に気がついた。
「本当かな?」
美桜はそうせずにはいられなくて自ら彼にキスをした。
「好き、絢士さんが大好きなの」
「それ今日は何回か聞いたが、まだ足りない気がするな?」
美桜は微笑んでから、もう一度心を込めて唇を重ねた。
「大好きよ、絢士」
彼の瞳が大きく開いたかと思ったら強く抱き締められた。
「くそっ!俺を試すのもいい加減にしろよ」
「試してないわ、本当よ。私にはもう何も証明しなくていいの、でも今日は健全なデートなのよね?」
いったん言葉を切ってそう告げると、がっくりと項垂れた彼が呟いた。
「小悪魔は撤回する、今日の美桜は悪魔だ」
結局、駅まで送ってもらいまだ早い時間だし、駅から近いのと兄に逢うと面倒だからとなんとか説得して家まで送るのは止めてもらえた。
「寄り道するなよ!着いたらすぐに電話して」
「はい、今日はありがとう」
「花が咲いたら教えてくれ」
最後に植物園でもらった薔薇の苗を渡される。
見送るつもりだったのに、動くつもりのない彼に美桜は仕方なく家へ向かって歩き出した。
振り返らなくても、彼が見ているのはわかる。
だから笑顔で振り返って手を振った。