猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「ねえ、あそこ」
美桜は景石のひとつをさした。
「昔、陽人とあそこにすごくリアルな蛙の置物をおいて、お母様を驚かせたの」
「ああ、俺が美術の課題で作ったやつだろ、あとで俺が叱られたんだぞ」
「えっ!?あれ蓮が作ったの?」
「美術の授業をサボってばかりいたら、何か提出しないと単位をくれないって言われたんだよ」
「それでどうして蛙?」
「俺の池には蛙が居なかったから」
美桜はにっこり笑った。
そう、ここは蓮の池。
ピンクの花がたくさん咲く美桜の中庭。
お日様が降り注ぐ陽人のテラス。
両親のお気に入りの場所は、その子供たちにとっても大切な場所になっていた。
「そういえば蛙、見なかったわね」
「陽人がみんな実験に使ったんだ」
「え?」
「ほら、あいつ蜘蛛とかも捕まえては、部屋でなんか生態調べてただろ?」
「そんなの知らない……」
「ああ、大抵はタキさんに頼んで食事に消えてたからな。もう時効だから言ってもいいだろう。おまえは唐揚げを旨そうに食べてたぞ」
「う、うそよ……」
「本当に気づいてなかったのか?」
美桜は必死で9歳の頃を思い出していた。
確かに陽人は変わったところのある子で、それがIQ が高いからとわかってからは両親を含め周りの人間は、陽人のやることにできるだけ口を挟むのを止めていた。
陽人が面倒くさがる事は、優先順位を計算した中で必要と感じないことなのだろうと父は言い、周りが見えないほど興味の有る事に集中しているってことよねって、母はいつもちょっぴり自慢気で。
そう、確かに陽人の興味の対象はいつも生き物だった
けれども……
カエル?何でカエル?
「蓮も食べたの?」
一体蛙の何を調べていたというの?
「いや、おまえに食べさせるのも何かの実験みたいな事を言ってたな」
「本当に?」
恐る恐る尋ねると、蓮が真剣にうなずいた。
イヤーッ!
私、本当に食べたの?
待って!そもそもその蛙って食用だったかしら?
だとしたら、それって大きいやつよね?
ヤダ!!蜘蛛は違うわよね!?
難しい顔のあと泣きそうになり、今にも吐き出しそうな顔に変わった美桜を見て、ついに堪えきれずに蓮は盛大に吹き出した。