猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「ワッハッハッ」
「騙したのね?」
「まさか信じるとは思わなかった!ヤバイ、腹が痛い…くくくっ……」
蓮は身体を二つ折りにして苦しそうにお腹を抱えた。
「もお!!!バカバカ!!だから兄なんて人種は大嫌いよ!」
美桜は蓮を突き飛ばして子供の頃と同じようにその場で地団駄を踏んだ。
「その歳になっても騙されてくれるから、妹って人種は愛しいんだよ」
蓮は何とか笑いをおさめながらくしゃっと美桜の頭を撫でた。
「早く店を閉めたんだって?」
何があったのかを聞いているのだろうけれど、美桜は首を振った。
「何でもない」
たぶん日向に聞いてるのだろう、蓮は『ああ』とうなずいただけだった。
「それで?どこへ行っていたんだ?」
「植物園よ、良い息抜きになったわ」
「一人でか?」
どうせ陽人から聞いてるくせに。
「蓮の知らない人とよ」
「美桜」
「もう、やめてよ。どこの馬の骨ともわからなくても私が幸せならいいって言ってたじゃない」
「おまえは今、幸せなのか?」
とても幸せだと言おうとして、なんだか兄を相手に言うのも恥ずかしくなりにっこり笑うに留めた。
「まだ始まったばかりだし」
「そうか、俺はそいつにいつ会える?」
「そのうちに……やっ!ダメよ、やめて!彼の事を調べたりしたら、蓮の過去の彼女たちに私は反対なんかしてないって言うわよ」
美桜は本気の印に歴代ワースト1だと思っている彼女の名前を挙げた。
「それはダメだ!」
蓮は慌ててなにもしないと、両方の手のひらをあげて見せた。
「心配しないで、陽人も日向も彼を気に入ったと言ってたわ」
「俺にも泣かしたら許さないとか、門限は9時だとか言わせてくれ」
美桜は微笑んで、兄に抱きついた。
「二人はそんな事、言わなかったわよ」
「だろうな」
蓮は愛情を込めてポンポンと美桜の背中を叩いた。
妹とは歳が8つ離れている。
美桜が生まれた時、母の病室で初めて抱いた時から、俺にとって妹はかわいいお姫様で大事に護る存在だ。
「でもまあ、これでしばらくはオババを遠ざけておけるだろう」
「伯母様に言わなくちゃダメ?」
「心配するな、その辺は俺に任せておけ」
「お兄さま、本当に彼を調べたりしないでね」
「わかっているよ、だから、俺にも会わせるんだぞ?」
美桜にはまだ両親の愛情が必要だった。
そして、両親も美桜の幸せを見届けたかったはずだ。
「近いうちにね」
「ああ、近いうちに必ず」
だから俺はやるべき事をするまでだ。
蓮は明日、日向とのランチの約束を取り付けていた。