猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
あの青い硝子の地球儀を渡して以来、出張の際はかかさず美桜にお土産を買って帰っている
もちろん、義務とかそういうんじゃない。
約束した映画を観に行った帰りに彼女は話してくれたんだ。
彼女の父親は仕事で国内外飛び回っていたが、どんなに忙しくても必ずお土産を買ってきてくれたんだと。
想い出の品を見るのは辛かったのに、俺があの硝子細工を渡した時に、渡された時の幸せな記憶が甦ったと。
俺にもお父さんの気持ちがわかるような気がする。
包みを開けた瞬間の彼女のあの笑顔を見るためなら、どんなに時間がなくても何かを買わずにはいられないさ。
小人を買うのは……まったく。
自分が補填したおこりんぼが、次に彼女の店に行くといなくなっているので半ば意地になっている。
小人は七人揃ってこその小人だろ?!
あの物臭兄貴はいったい何人のおこりんぼを、どこに飾っているんだよ。
実は最近はそのやり取りを楽しんでいるなんて、口が裂けても言うつもりはないし、先日彼女に兄からだと渡された不細工なクマのボールペンを気に入ってるなんて、絶対に教えるものか!
絢士は自分の顔が笑っている事に気づかず、レジへ向かった。
「あの、室長は……」
「なんだ?」
「あ、いえ何でもありません」
神宮寺は『いい恋をしてるんですね』という言葉を言いかけてやめた。
そんなことを言うと殴られそうだ。
尊敬する上司が、影でどれだけの努力をして今の立場にいるかを神宮寺は知っている。
この会社に入社して、榊さんの下につかされた時にはどうなる事かと思っていたが、コネや派閥を持たない分、結果を出すことでこの人は大きな評価を得てきた。
この先の出世はまた厳しいものになるだろう
来週新しく来る部長はどこからかヘッドハントされてきたと聞いてるが、たぶん常務辺りのコネだろう。
社長交代が囁かれている今、水面下で派閥争いが激化している。最悪のシナリオも想定しているが、どこまでも榊についていくつもりだ
榊さんの側ならどこだろうが、将来の自分の為に学ぶことがある。
反面、ないがしろのプライベートからは何も学べなかったんだけど。
女性に対してドライというか、後腐れのない付き合いしかしてないのを何度も見てきた。
だが最近はどうだろう?
僕の事を男のくせにロマンチストだと笑ってたくせに
そんな男も羨む容姿で、幸せそうに笑って彼女にオルゴールとか硝子細工とかってさ、
どっちがロマンチストだよ!
人は変われば変わるものだ……いや、もしかしたら室長は本来こういう人だったのかもしれないな。
それにしても、謎の彼女はどこの誰だろう?
この人をここまでメロメロにする女性に是非とも会ってみたいものだ。
「神宮寺、帰るぞ!空港でとうきびチョコを買って、ソフトクリームを食うんだろ?」
そうそう、僕の餌付けを忘れない所がこの人についていく理由の一つさ。
「はい!」
神宮寺は元気に返事をした。