猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「ごめん」
『本当にごめん』と絢士に抱き寄せられた。
「こんなこと初めてで。どうしたらいいかわかんないんだ」
「え?」
「美桜が好きすぎて余裕ないんだよ」
ぎゅっと抱き締める腕に力が込められた。
「迎えに行ったことを怒ってないの?」
「怒るわけないだろ!」
「でも……」
「すげー嬉しくて、なんとかそれ堪えたのに早く会いたかったなんて言うから、本当にあの場で押し倒しそうだったんだぞ!」
「絢士さん……」
「美桜、今日はこのまま帰したくない」
言いながら彼は苦笑いして、私を離した。
矛盾している行動に美桜は戸惑う。
「絢士さん?」
「ほら、門限があるとかで帰るって言えよ」
頬を長い指でなぞられる。
心の中で帰らなければいけない理由を一生懸命考えてみたけれど、驚いたことに一つも浮かばない。
それどころか、私も今日は彼といるつもりだった事に
気づいて、内心でちょっとしたパニックのような笑いが込み上げてきた。
「蓮が門限は9時だって言ったの」
「よし、ならば……」
彼の顔を見て、間違ってしまうかもと思いながら美桜は勇気を出した。
「でも午後って言ってなかったのよね」
力なく微笑んで彼を見上げると、安堵していた顔が驚きに変わり次いで苦しそうな困ったような顔になった。
「何を言ってるのか、わかってるのか?」
「私も帰りたくないって言ったつもりよ」
「美桜」
「健全なデートをした日、もう何も証明しなくていいって言ったと思うけど?」
絢士は美桜の手をとってしっかり繋ぎ合わせた。
「行こう」
美桜はどこへ?とは聞かずに素直に従った。