猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
幸せの記憶
タクシーに乗ると絢士さんは
行き先をザ・ホテルトーキョーと告げた。
幼い頃から何度も訪れたことのある都会のオアシスと呼ばれるザ・トキオにこういう形で来るのは初めて。
慣れ親しんだ場所なのにさっきから落ち着かない心臓がドキドキとうるさく胸を叩いている。
チェックインを済ませた絢士さんがベルボーイを断って私の所へきた。
「お腹は?」
美桜は黙って首を振った。
今さら後には引けない
もちろん覚悟は出来ている
誰もいないエレベーターに乗り込むと彼の肩に寄りかかる。
「嫌ならやめるよ」
無口になった美桜に彼が優しく囁いた。
美桜はまた首を振った。
さっきからずっと
彼を騙しているような気が拭えない
わかってる……
自分が何者か伝えるなら今がその時。
でも伯母様との約束は?
どうしよう……
「絢士さんが好きなの……あの……わたしね……」
髪に手を差し込まれて美桜は顔を上げた。
「こんな所から煽らないでくれ」
彼は色っぽくため息をついて、ちゅっと額に口付けられる。
言えない……
どうしよう、怖くて言えない
もう離れられない
離れてほしくない