猫と宝石トリロジー①サファイアの真実


エレベーターを降り、絢士が部屋のドアをわざと大きく開けて先に中へ入って荷物を置いている。

美桜は躊躇いを追い払って室内へ入った。

バタンと扉の閉まる音がすると、彼がこちらを振り返り大股で近づいてきた。

「絢士さん?」

ぐいっとそのまま背中を壁に押される。

「んっ…」

噛みつくように唇が重ねられ、所有欲を剥き出しにしたキスをしながら彼の手が服の上から胸を這っていく。

「待って」

美桜は彼の胸を強く押した。
唇を離すと無言で熱く見つめられる。

「ちょっと待って……」

一歩引こうとすると強く抱き寄せられた。

「俺が怖い?」

瞳に怯えを感じたのか彼の手が優しく背中を上下する。

「違う」

「正直に言っていいよ」

「絢士さんが離れていくのが怖いの……」

「どうして?離れないよ、実際こんなにくっついてるし」

ぎゅっと抱き締める肩越しに彼が微笑む気配を感じる。

美桜の頭の中が言えずにいる言葉を唱えた

機械メーカーのASO って知ってる?
その会社の現社長は兄の蓮なの

「本当の私を知っても……」

何でもない事のように笑ってくれる?

「なんだそんなこと」

彼が本当に何でもない事のように微笑んだ。

「どんな君でも俺は離すつもりないから安心していいよ」

絢士は手を取るとしっかり繋ぎ合わせて今度はゆっくりと唇を重ねてきた。

愛情のこもった優しいキスに美桜の胸が彼への想いでいっぱいになる。

「まだ怖い?」

美桜は潤む瞳を堪えて、自分を見る絢士をじっと見つめた。

怖いよ……

真実を告げるのがさっきよりも怖くなった

でも彼の言葉を信じたい

私もどんなあなたでも、そばにいたいから


彼を見つめたまま腕を伸ばそうとするとサッと抱き上げられた。

「絢士さんっ?!」

「やっと捕まえた、俺のお姫様」

絢士は微笑んで自分のものだというキスをした。

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