猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
サファイアの真実 後編
26年前
26年前 ―初冬― 東京
綾乃は咳き込む胸を押さえて色鉛筆を持つと、三歳になる可愛い息子の為に彼の大好きなフック船長とワニの絵を描いた。
「おかしゃん、チクタクチクタク」
絢士はワニの隣に茶色の四角を描いて、その中に黄色でたくさん金貨らしき丸を描いていた。
「絢士上手ね、はい」
絢士が瞳をキラキラさせてワニのお腹を指している。
好奇心が旺盛で少し向う見ずな所がある息子に、キラキラの瞳で見つめられると、綾乃の胸はいつも愛しさではち切れそうになる。
あの夏、魔法の国で出逢った王子様……
息子の瞳は彼の瞳とそっくりだ。
彼も瞳をキラキラさせながら、自分の冒険旅行話を私に聞かせてくれた。
もしも過去にもどれると言われたら彼に告げただろうか?
記憶のなかで色褪せない彼の笑顔に綾乃は心の中で首を振った。
これでよかったのよ
私は間違ってない、
罰を受けるような事はしていないわ
じゃあどうして?
なぜこんなに早く神様は私を?
まだこの子には母親が必要なのに……
綾乃の胸の中に、
愛しさと同じだけの悲しみが溢れてきた。