猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

綾乃の様子に気づいたみゆきがその手にある緑色の色鉛筆を取り上げた。

「あやと、おかしゃんはちょっと疲れたみたいだから寝かせてあげようね」

「えーーチクタクまだないよ?」

可愛く口を尖らす息子を見て、綾乃は悲しみを振り払った。

「ごめん、みゆきさん。まだ大丈夫」

みゆきさんがいるから息子は大丈夫。

二週間前に言われた、彼女からの驚きの提案を受け入れて、綾乃は心から安心を得られた。

この先息子は大変な思いをするかもしれない

でも愛情を疑う事はないはずだ。

自分を愛してくれる人が側にいることを知っていれば、きっと絢士も誰かを愛して温かい家庭を築けるはず。

「無理しちゃダメよ」

みゆきさんが心配そうな顔で『はいっ』と色鉛筆を差し出した。


三年前、絢士を産んだばかりの頃にアパートの隣にみゆきさんが越してきた。

背が高くて美人のみゆきさんは日中は家に居て、夕方になるときれいな格好でお仕事へ出掛けていく。
どこかクラブとか夜のお店に勤めているんだとわかった。

そんなある日、夜泣きの酷い絢士を抱いて明け方途方に暮れて外を散歩している時に仕事帰りのみゆきさんに声をかけられた。

疲れきって今にも泣き出しそうな私の腕から絢士を取り上げると、有無を言わさず家に帰り私に休むように言って、半日ほど絢士の面倒をみてくれた。

その日から、昼夜生活が逆転しているみゆきさんは、綾乃の子育てを助けてきてくれた。

歳は10歳位上?(だって未だに正確な歳を教えてくれない)離れているけれど、この三年の間に少しずつお互いの身の上話をしながら私たちは親友になっていった。

みゆきさんのことは信頼している。

誰にも……
ここまでお世話になった月子さんや豊さんにも言えなかった絢士の父親の事を、みゆきさんには近い内に打ち明けようと思っている。

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