猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「はい、チクタク」
綾乃はワニのお腹の中に分かりやすく大きな腕時計を描いて、絢士を喜ばせた。
「にげろー!せんちょう、にげろー!」
「まったく……そういうことが親子なのよね、ちょっと間違えば残酷なのに」
「えーそう?このチクタクに怯える船長って私好きよ」
「普通はピーターパンが好きなのよ!」
「ボクはおたからがすきー」
絢士がさっきみゆきさんにもらった金貨のチョコレートを自慢気に綾乃に見せた。
「あら、私もそれは好きよ」
みゆきさんがポケットからもうひとつチョコレートを出して見せた。
「あー!まだある!」
「ふふっ、絢士は大きくなったら宝物と素敵なお姫様を見つけてね」
綾乃は絢士をぎゅっと抱き締めた。
すると絢士が綾乃を見上げて渋い顔をする。
「おひめさまはいいよ」
「どうして?」
「ぼうけんのあしでまおいだもん」
「それを言うなら足手ま・と・い」
みゆきさんの指摘に綾乃はクスクス笑いながら息子の髪を撫でた
少しくせのあるビターチョコレート色の髪
好奇心旺盛なキラキラと輝く瞳
そして、冒険や宝探しが大好きな性格
今となっては、あの夏の出来事は夢のように感じるけれど、自分とは違う息子を見れば、彼は確かに存在したんだと胸が熱くなる。
「さ、そろそろ帰る時間ね」
みゆきさんが絢士を抱き上げようとすると
「おかしゃん、ないしょだよ」
絢士は金貨のチョコレートを一つ綾乃の枕元に隠した。
「こまったらこれつかってね」
茶目っ気たっぷりの笑顔は、綾乃の記憶をあの夏のアイルランドへ引き戻した。
大丈夫……魔法はまだ続いているはず
彼の帰国と共にいなくなってしまった
あの白いオッドアイの魔法使いは
きっとどこかでこの子を護ってくれるはず